アイヌ・先住民族・遺骨返還

2018年10月 3日 (水)

国立科学博物館と山梨大学の「ご回答」への再質問状(2018/10/1)

2018年10月1日

独立行政法人国立科学博物館
館 長 林 良博 様

国立大学法人山梨大学
学 長 島田眞路 様

北大開示文書研究会 共同代表 清水裕二
  殿平善彦
遺骨返還訴訟原告 小川隆吉
コタンの会 神谷広道
平取アイヌ協会員 木村二三夫
コタンの会副代表 山崎良雄
  葛野次雄
コタンの会事務局長 高月 勉
紋別アイヌ協会長 畠山 敏

ご回答への再質問状

今年5月、貴職に差し上げた私どもからの質問状に対する、貴職からの回答を受け取りました。私どもでいただいた回答を検討いたしましたが、納得できない多くの疑問点があります。ここに再度質問をさせていただきますので、よろしくご回答ください。

(1)

篠田氏並びに安達氏らによる論文N. Adachi, et al., “Ethnic derivation of the Ainu inferred from ancient mitochondrial DNA data”, American Journal of Physical Anthropology(165号)において、篠田、安達両研究者はアイヌのミトコンドリア遺伝子データを用いて研究を行ったと論述されており、私共は5月に差し上げた質問状で「DNAを検出するにあたり、コタンの構成員たるアイヌの了解を取る必要があったと考えられますが、両氏は了解を得ることなくDNA検出行いました。貴研究機関の研究倫理規定に悖る研究と言わざるを得ないと思われます」と指摘致しました。

これに対して、貴職は「同遺骨はDNA試料を採取するにあたっても、北海道ウタリ協会及び北海道教育委員会の関与のもとに実施」したと回答されました。私どもはすでに質問状の中で「両氏は研究に先立ち北海道アイヌ協会の了解を得たというのであるなら、北海道アイヌ協会は任意の道内のアイヌの集まりであって、遺骨が発掘されたコタンの構成員とは無関係」であると指摘しています。まして、北海道教育委員会に許諾の権限があるはずもありません。質問の文脈を無視した回答は不誠実と言わねばなりません。

2014年に文部科学省と厚生労働省は「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」を作成しましたが、人(から取得された試料)を対象とする研究は、研究対象者からインフォームドコンセントを得ることを条件にしています。死者などの場合は「代許者等」の承諾となりますが、代許者は「研究対象者の意思及び利益を代弁できると考えられる者」でなければなりません。また研究者は、代許者の選定方針を研究計画書で説明する必要があります。

両研究者の研究は指針作成以前の研究ではありますが、この指針に準拠した行動をとるべきことは、研究者の倫理的自己判断において当然でありましょう。

両研究者が利用した当該遺骨のDNA試料採取の承諾を得るべき対象は、浦河町、伊達市など、かつて遺骨が埋葬されていた23の市町村に在住するコタンの構成員たるべきアイヌです。アイヌ遺骨を研究しようとする研究者は、遺骨となった死者の末裔たるその地域のアイヌに対して、遺骨の研究利用を丁寧に説明して、承諾を得る責任があります。安達、篠田両研究者は死者の末裔たる地域のアイヌに対して承諾を得るための努力をしたとは言えません。先祖の遺骨が傷つけられたのは、傷の大小が問題なのではありません。あなたの先祖の遺骨が他者によって傷つけられたらどう思いますか。直ちに現地を訪れて謝罪すべきではありませんか。その意思をお持ちでしょうか、お尋ねします。

回答には「出自が明確なご遺骨のみを研究対象にした」と書かれています。とすれば「北海道教育委員会が札幌医科大学に寄託した」遺骨の「出自」について、両研究者は十分承知して研究試料として利用したのでありましょう。それであるなら、リストに示された115体のアイヌ遺骨に関して、その遺骨は何時、どこから、どのように発掘されたのでしょうか。お知らせください。

出自が明らかなら、直ちに現地に出向いて、詳細な説明を現地の遺骨の末裔たるアイヌにするべきであります。

DNAに関する情報は極めて重要な個人情報であり、特別慎重に扱われるべき情報です。採取されたDNA情報は、現在どう管理され、秘密の保持がなされているのでしょうか。その取扱いについても、当該コタンの末裔たるアイヌに説明するべきです。重ねて現地に出向き、当該遺骨の末裔たるアイヌに誠意ある丁寧な説明をされるよう、強く要求致します。


(2)

私どもは質問状の中で、浦河町東栄遺跡で発掘され、研究に利用された34体の遺骨に関して、浦河町教育委員会発行の報告書を根拠として、遺骨が明治以後の近代にいたって埋葬された遺骨であり、研究者が試料の年代を江戸期としているのは誤謬であること、したがって「篠田、安達両氏のアイヌ人骨研究はもともと文化財でもありえない近代のアイヌ人骨を江戸時代のものと主張して、架空の前提に立ってDNA研究を行ったことになる」したがって「両氏の論文の根底が揺らぐことになり、論文の取り消しをする必要があるのではないか」と指摘しました。

この指摘に対して、貴職は、遺伝子データの分析結果から江戸期のものである、と回答され、東栄32体の「ミトコンドリアDNAのハプログループ」の検討の結果、本土日本人の影響があるのは1体だけだった、よって「結果的にではありますが」「江戸期のアイヌそのものとの結論に至っております」とされています。

この回答は、研究者として初歩的な論理的誤謬を犯しています。結論によって前提を証明しようとしているのです。論文の狙いは、江戸期のアイヌ人骨のデータを調べて、アイヌの遺伝的成り立ちを検討するというものでしょう。そうであれば、データが江戸期の物であることが、分析以前に確定されていなければならないはずです。ところが貴職の回答は、和人の影響が少ないという結果によって、遺骨は江戸期のものであると結論付けようとしています。そうなると、論文の正当性を主張する論拠は次のような循環論法に陥るでしょう。

(東栄遺跡発掘のアイヌ遺骨は)なぜ江戸期といえるのか→和人の遺伝的影響が少ないから→なぜ和人の影響が少ないのか→江戸期の遺骨だから→
これは学術論文として成立しない欠陥ではないでしょうか。

「江戸期以前は和人の影響が少ない」という命題からは、「和人の影響が多ければ江戸期以前ではない」と言えますが「和人の影響が少ないから江戸期以前である」とは論理的に保証できません。明治以後のことは何も語られていないからです。実際、明治以後でも和人の遺伝的影響が少なかった地域があるかもしれません。東栄のアイヌ人骨は近代以後において和人の遺伝的影響が多いという先行研究が存在するのでしょうか。お教えください。


(3)

私どもは東栄遺跡の土器や石器が縄文早期の遺物であり、同時に発掘されたアイヌ遺骨が近代の物である以上、遺骨の文化財認定は誤認ではないかと指摘しましたが、貴職は「東栄遺跡のご遺骨はこれまでの多くの研究で近世のものとされてきました。私たちもそのような先行研究の結果を尊重して、今回の遺骨を近世のものとして研究を進めることに」してきたと回答されました。どのような先行研究がなされたのか、著者名、論文名、掲載誌、該当箇所をお示しください。貴職は「東栄遺跡のご遺骨が明治以降のものを含むか否かにつきましては、今後考古学を含む様々な見地から検証されていく」と述べられました。研究試料の時代に関して、問題があることを認められたと解されます。そうであるなら「論文を取り消す意思はありません」と結論されるのは誠意ある研究態度とは言えないのではないでしょうか。貴職は「本研究は『先住民族の権利に関する国際連合宣言』を踏まえた研究」であると主張されていますが、コタンの構成員の承諾を得ず遺骨から試料採取を行い、試料の時代の確定にも問題を残した研究が、どうして「先住民族の意志を尊重した研究」といえるのでしょうか。アイヌの先住権たる遺骨の追悼への権利を踏みにじり、研究の自己正当化を図ろうとする態度を認めることはできません。私たちは、両研究者が無断で先祖の遺骨を傷つけ、何らの反省の思いもないことに強く怒りを覚えます。

どうか、遺骨を持ち去られたコタンの末裔たるアイヌに誠実に向き合っていただきたい。誠意ある回答をお待ちします。

以上をもって再質問とさせていただきます。回答を少なくとも10月末日までにいただきたく申し入れます。


連絡先事務局 〒077-0032 留萌市宮園町3-39-8
アイヌ民族情報センター内 
北大開示文書研究会  三浦忠雄
Phone.Fax 0164-43-0128

2018年5月15日 (火)

国立科学博物館と山梨大学に対する質問状(2018/05/14)

2018年5月14日

独立行政法人国立科学博物館
館 長 林 良博 様

国立大学法人山梨大学
学 長 島田眞路 様

北大開示文書研究会 共同代表 清水裕二
  殿平善彦
遺骨返還訴訟原告 小川隆吉
コタンの会 神谷広道
平取アイヌ協会員 木村二三夫
コタンの会副代表 山崎良雄
  葛野次雄
コタンの会事務局長 高月 勉
紋別アイヌ協会長 畠山 敏

質 問 状

わたくしたちは明治期から戦後に至るまで、東京大学、京都大学、北海道大学をはじめとした全国の大学などの研究者がアイヌ墓地を発掘し、遺骨と副葬品を持ち去った事実を調査し、大学等に持ち去られたままのアイヌ人骨と副葬品の、発掘地のコタンへの返還を求め、かかる行為を行った関係者、機関の責任と謝罪を求めてきました。

大学等の人類学者などが研究のためなどと称してアイヌ人骨を持ち去ったことはアイヌ民族への植民地主義的な差別と抑圧の産物であり、先住民族であるアイヌが自らの宗教的方法で先祖を祀る信教の自由を奪い、先住権としての自己決定権を奪うものであります。

2007年に採択された「先住民族の権利に関する国連宣言(UNDRIP)」は12条おいて、奪われた遺骨の先住民への返還を求めており、2008年には国会において「アイヌを先住民族とすることを求める決議」が成立したことは周知のことであります。2016年からは遺骨返還訴訟によって持ち去られた遺骨のコタンの墓地への返還が進みつつあります。

2010年から国立科学博物館副館長人類研究部・篠田謙一氏および山梨大学医学部法医学講座教授・安達登氏両氏は札幌医科大学に保管されている115体のアイヌ人骨を利用して、発掘されたコタンの構成員であるアイヌの承諾を得ずにミトコンドリアDNA研究を実施し、その後、その成果を研究論文として公表しています。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ajpa.23338

2017年5月16日、私たちは札幌医科大学にその事実関係確認のために質問状を提出し、その後札幌医科大学より回答を得ました。その結果に基づき札幌医科大学に遺骨返還の要望書を提出しております。

2018年1月26日、コタンの会と浦幌アイヌ協会は北海道知事と札幌医科大学を被告として、当該地域のコタンの墓地から持ち去られたアイヌ人骨の返還を求めて札幌地方裁判所に提訴しました。

裁判は進行中ですが、今日に至る中で様々な事実が判明し、篠田氏、安達氏が行ったDNAサンプルの採取と研究活動に関して、看過できないとの思いを持つに至りました。ここに質問状を国立科学博物館および山梨大学あて提出するものであります。両機関におかれましては、早急に事態を精査のうえ、可及的速やかに誠意ある回答をくださるようお願い申し上げます。

続きを読む

2018年3月27日 (火)

葛野次雄さん(コタンの会 副代表)「今、伝えたいこと」

木村二三夫さん(平取アイヌ遺骨を考える会共同代表) 「札医大と初めて話して感じたこと、言いたいこと」

2018年3月24日 (土)

植木哲也 「アイヌ遺骨、琉球人遺骨、奄美人遺骨」

植木哲也(苫小牧駒澤大学)
 北海道大学から、これまで浦河、浦幌、紋別へアイヌ遺骨が返還されました。その後も旭川、静内と訴訟が続いています。2018年になって札幌医科大学に対する裁判もはじまりました。アイヌ遺骨の返還という問題もしだいに世に知られつつあります。
 とはいえ、世間的には依然、「北大の」遺骨問題や「北海道の」ニュースを大きく超え出ていないのも現実です。
 アイヌ遺骨を保管している大学が全国に及ぶことは、文部科学省の調査などから明らかになっています。北大、札幌医大に続く多数の遺骨を保管している東京大学の場合、明治初期に小金井良精(よしきよ)が北海道旅行を通じて大量のアイヌ頭骨を収集しました。ここから日本人学者によるアイヌ遺骨の大量収集がはじまったのです。小金井は、帝国大学設立時の解剖学教授であり、明治日本を支えたエリートの一人です。アイヌ遺骨収集は日本の近代化の一過程として行われたのです。
 収集された遺骨はアイヌだけに限られません。京都大学には数多くの琉球人遺骨が保管されています。報道によれば、人類学者の金関丈夫(かなせきたけお)が1920年代に沖縄県今帰仁(なきじん)村の百按司(むむじゃな)墓から持ち出したのもので、26体が京都大学に、33体が台湾大学に保管されています。アイヌ遺骨と同様に、研究のため持ち出され、そのまま放置されてきたのです。
 これに対しても返還を求める運動がはじまりました。
2017年、龍谷大学教授の松島泰勝氏らが琉球人遺骨の保管状況について京都大学に問い合わせを行ないましたが、十分な返答が得られませんでした。この点は、アイヌ遺骨に対するこれまでの北海道大学の対応とそっくりです。2018年1月27日には東アジア共同体・沖縄(琉球)研究会が「琉球人・アイヌ遺骨返還問題にみる植民地主義に抗議する声明文」を公にしています。
 衆議員議員照屋寛徳氏は、2月16日衆議員議長に「琉球人遺骨の返還等に関する質問主意書」を提出しました。これに対して政府はたいへん素っ気ない返答をしています(「政府答弁書」)。
衆議員議員照屋寛徳氏(2月16日)「琉球人遺骨の返還等に関する質問主意書」
「政府答弁書」
 また「琉球人遺骨」として京都大学総合博物館に収蔵されている遺骨に、喜界島、徳之島、奄美大島など「奄美人遺骨」が多数含まれることも明らかになってきました。奄美の人びとの間でも、遺骨の返還を求める活動の呼びかけがはじまっています(「京都大学収蔵の奄美人遺骨問題への対応について」)。
 日本国内に限っても、遺骨収集はこのように多岐にわたるものでした。北海道や琉球は、近代日本がスタートにあたって最初に植民地化した地域にほかなりません。墓地発掘は、近代化という歴史的プロセスの中で発生した普遍的事象だったのです。この問題は、特定研究者による悪質な行動という理解に押込めるのでなく、帝国の拡大にともなう世界史的出来事という観点から考えていく必要あるでしょう。その限りで、現代世界に暮らすわたしたち全員が当事者といえる問題なのです。

2018年2月17日 (土)

ニューズレター最新号を公開しました

北大開示文書研究会ニューズレター

最新号を公開しました。2月16日出前講座(札幌)で配布しました。

No.20 2018年2月16日発行、637No.20 2018年2月16日発行、637KB

札幌医科大学に遺骨返還を要求/札幌医大の説明には矛盾がある(清水裕二さん)/私たちの先祖は研究試料なんかじゃない(差間正樹さん)/アイヌ遺骨は本当に「埋蔵文化財」なのか(市川守弘さん)/札幌医科大学に留め置かれたままのアイヌ遺骨(浦河町、浦幌町分)/収蔵アイヌ遺骨の損傷を許した札幌医科大学は謝罪を/篠田謙一氏から届いた「DNA解析を行ったアイヌご遺骨」(2017年6月15日づけ)から/管理遺骨への責任を自覚してください/ほか

2018年1月 5日 (金)

今後のアイヌ政策について思うこと/ジェフ ゲーマン

今後のアイヌ政策について思うこと
    ジェフ ゲーマン

 

こんにちは、年の瀬に失礼いたします。北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院/教育学院に所属しているジェフ ゲーマンです。この度、私は、良心につつかれ、私と同じようにアイヌの研究に携わっている・携わろうとしている昔今の私の知り合いに、恐れ入れながら、是非年内にと思い立ち、現在のアイヌ政策をめぐる議論の状態に関するこの便りを送っているわけでございます。実際にご挨拶に上がるべきところ、メールにての失礼をどうかお許しいただければと存じます。ご多忙の時に全く身勝手にこのようにして文書をお送りするのは恐縮です。かなり長いですが、読み飛ばしていただいても構いません。

 

私が希望を持ちたい一つのエピソードを紹介します。2017年1月に札幌市のかでる2・7で開催されたアイヌ文化際の後半に常本照樹北海道大学アイヌ・先住民研究センター長が今後のアイヌ政策の課題と展望について講演をした時に私は会場にいました。常本教授は、講演の最後に、海外では先住民族政策の法的根拠として、憲法での言及、基本法等の制定があることに触れながら、今後アイヌ民族にとって相応しいものを制定できるよう一生懸命頑張りたいと締めくくりました。

 

そのような発言に、アイヌ民族を支援しようとしているすべての個人、グループの願望が共有されていることに私は期待したいのです。相手のご意見に傾聴して初めて確認することが可能になります。そのような対話を促すために、今日この便りを書くに至ったわけです。

 

皆さんご周知のように、日本の先住民族であるアイヌ民族をめぐる議論が近年になく白熱している状況にあります。とりわけ、近い将来にアイヌ基本法(仮称)が制定されることに向けて、内閣府が中心となり、準備が進められていることが注目の的となっています。おそらく2020年までに新法は施行されるが、それ以降にさらに新しいアイヌ政策が作られても、進歩は期待できないとも言われており、まさに現在がアイヌ民族を取り巻く状況に真摯に立ち向かい、真剣に審議、議論すべき時と考えます。

 

しかしながら、アイヌ民族政策を大きく左右し得る立場にいるアイヌ民族を取り巻く支持者(研究者、アクティビスト)の状況が錯綜しており、お互いを相殺しあっていることから、アイヌ民族にとってベストな状況をつくるのに、支持者同士がお互いにコミュニケーションをとり、相互調整することが望ましいと言わなければなりません。

 

錯綜している状況の一つの事例に、内閣府が有識者の助言にもとづき、アイヌ民族のニーズに関するヒアリングを行おうとしていると聞きます。しかし、以前アイヌ民族を一生懸命支援しようと頑張った支持者(学者)の中に、現在「方針を一変した」といわれている方々もおり、そのようなヒアリングが行われても、アイヌ民族の中の多様性を担保できるかという疑問の声も耳にします。つまり、アイヌと研究者・為政者の間の信頼関係が成立しているとはいい難い状況です。一方で、アイヌとともになって、拾え切れない可能性があるアイヌのオールタナティブ(第三の立場)の声を届けようとしている人もいるが、「寝返った」とまで言われないまでも、独りよがりで行動をし、本当にアイヌの声を聴いているのかと疑問視される支持者(研究者、一般市民)もいる状況です。

 

このようにアイヌとともに研究をすることを目指している人や、アイヌ「のために」支援に取り組もうとしている人の位置づけ、役割、貢献しうることが問われている状況であるが、それを理由に建設的な議論や、そのような議論の前提となるはずの客観的な対話をやめるわけにはいかず、当事者全員が一層の努力を注ぎ込むべきではないでしょうか。そこで私はこの度アイヌを支援しようとしている者の一人として、アイヌの支持者の横のつながりはもう一度見直せないかと思っています。具体的な提案はないが、当事者の一人として自らの思いを宣言することも役に立つと信じたいです。今一度、ここ数年の経緯を踏まえ改めて考えていることを確かめるためにも、ここで短く述べさせていただきたいと思います。

 

そもそも、私のような者がこのような便りを執筆するのは僭越であり、資格がないといわれてもおかしくないかもしれません。研究業績も多くないし、為政者とのつながりも持っておらず、北大の一つの部局で重要な委員会に入っていない単なる准教授にしか過ぎません。しかも外国人です。おまけに、私は対話を大切にしている一人だと思いたいが、それは必ずしもいつも思い通りには叶ってきたわけでもなく、最近は批判の指をさされても大声で反論できません。例えば、以前から、北海道の随所の地域に住んでいる様々なアイヌの人々とも仲良くお付き合いをさせていただいていました。また、研究の面では先住民族と非先住民族、研究者と研究者ではない人々が一緒になり、先住民族がおかれている状況を多角的に、客観的に接近するための研究体制の構築を夢見、それを実現すべく、2014年に3年間の科研基盤B(科研番号80646406)プロジェクトに乗り込みました。が、2015年の3月にアイヌ民族出身であり、そして私の研究プロジェクトに協力しているメンバーとの行き違いにより、自覚不足やプロジェクトマネージメントの不行き届きというクレームの中で、プロジェクトの存続自体が危ぶまれる時期を迎えました。以降の二年間半、半分「保身的」に自分の研究基盤を再度かためようとせざるを得ない状況に追い込まれました。

 

その間、自らの研究基盤の修復に追われていたために、遺憾と思いつつも、自分の研究の理想であった対話を必ずしも求めようとせず、例えばアイヌを支援しようとしている研究者・市民グループと共に活動する場合でも、彼らに意見の違った人たちとの対話を促す余力がなかったわけでもあります。誤解を恐れずに言いますと、これらの研究者・市民グループの批判は妥当なものでしょうが、彼らが批判している人々に対し常に対話を求めなかったことに対し、対話を促進する努力をすべきだったと反省しています。いずれにせよ、漸く今年の年末になって、多少自分を反省する余裕ができ、この便りの内容の基礎となることについて少し考えることができました。

 

そもそも、アイヌ民族自身はアイヌ民族のことをすべて自分らで決める権利があり、アイヌ民族ではない人々がアイヌの研究やアイヌの政策審議にかかわることがいけないと主張する人々が確かにいます。その主張はそれで正当なものではあるが、世界中のマイノリティ運動を見ても、支援者がいてはじめて前進するところは珍しくないのも事実です。当事者のマイノリティの希求を極力尊重しつつ、当事者たちの多様な声を反映させようとすれば、外部者には一定の貢献はあり得ると私は考えています。そこが私はすべてのアイヌ支援グループの取り組みや活動が役に立っていると思いたい所以です。

 

逆に、アイヌの多様の声が飛び交い、議論が当事者のなかでもなかなかまとまらない中で、私自身がそうなったように、支持者が板挟みになる状況が多々あっても当然かもしれません。しかし、そうはなってもそれはそれで活動を中止するわけにはいかないと思います。只、自身の主張をするあまり、アイヌ民族の相互扶助を超えたものになってはいけません。それさえならなければ、建設的に物事が進む一助になり得ると信じたいところです。

 

第二ですが、数年前まではアイヌ民族を支援しようとしている非アイヌの研究者・アクティビストたち同志がお互いに対話があったように思うのに、そのような関係性がなくなったように感じるのは私だけでしょうか? また、そこから何等のマイナス面は生まれていないでしょうか? よりたくさんの対話の場があり、より多くの関係者の出席があれば良いのにと思っているのは私だけでしょうか?

 

確かに一部に対話を求めない研究者・アクティビストの活動が活発化している状況があります。また一方で、理由はともかく、上記で「寝返った」と言われている人たちが現れ、一部のアイヌが彼らを排除しようとしている状況が生まれたといえるかもしれません。しかし、それを理由に、お互いの言い分を傾聴することを止める言い訳にはなるでしょうか。完璧にみんなに好かれ、すべての人に受け入れられる研究・研究者・活動家の主張というものはありえないでしょう。批判の指をさしても、逆にその三倍の批判が帰ってき得ることを念頭に置かざるをえないように思います。

 

理想を求めるのも大事だが、別に妥協をするつもりがなくても対話をすることにより、意外な共通点が見つかるかもしれません。それぞれが客観的な対話により、少なくとも様々なネットワークの中の自分の立ち位置をもう一度確かめることができ、またひょっとしたらより相互扶助の働きが促進される可能性もあるのではないでしょうか。

 

いずれにせよ、現在アイヌ政策の実現において一番必要とされているのは、オープンで民主的な対話ではないかと考えたときに、そのような対話の実現に向けて自分はあらゆる方面において最大限の努力をしたかと問われれば、「はい」とは言えません。年末のこの時期に立ち止まって、アイヌ民族を支援しようとしているものの一人として、立場が違うアイヌを支援しようとしている人に対話を求め、手を差し伸べようとしたかと自問すると、必ずしもそうではないと答えなければなりません。そのことから、反省の気持ちを込めて本日この便りを書くに至ったわけです。

 

冒頭に書いたように、具体的な提案はございません。但し、私がかかわっているアイヌ民族支援グループの人々に、上記のような対話的態度を促したいように存じます。「今さら」と多少皮肉のように聞こえるかもしれないが、お互いを理解しあうために、その人と同じテーブルに並んでいないといけないからです。

 

そのような対話を望んで、この文書を謙虚に締めくくります。

   

2018年がアイヌ民族、そして皆さんにとって希望に満ちた年となりますように。

 

2017年大晦日
    大分県玖珠町にて

 

Jeff Gayman

 

追伸:ご返信には及びません。この文章の転送・転載は構いません。

2017年12月11日 (月)

出前講座(札幌、2018年2月16日)のご案内


奪われたアイヌ遺骨
その研究の過去と現在
東京大学・札幌医科大学のケース
奪われたアイヌ遺骨
その研究の過去と現在
東京大学・札幌医科大学のケース

とき 2018年2月16日(金)18:00-20:30

ところ 札幌市教育文化会館 講堂(4階)
札幌市中央区北1西13  電話011-271-5821

入場料 無料(資料を500円で頒布します)

主催 北大開示文書研究会コタンの会


プログラム

植木哲也さん(苫小牧駒澤大学教授)
「小金井良精の北海道旅行―東大のアイヌ遺骨」

殿平善彦さん(北大開示文書研究会共同代表)
「 私たちが札医大に問い質したいこと 」

木村二三夫さん(平取アイヌ遺骨を考える会共同代表)
「札医大と初めて話して感じたこと、言いたいこと」

討論・交流会


北大開示文書研究会は、活動の一環として、広くこの問題についてお伝えするべく、各地で「出前講座」を開いております。開催を希望されるかたはお気軽にご相談ください。

2017年12月 2日 (土)

ドキュメンタリー作品「八十五年ぶりの帰還」が完成しました

八十五年ぶりの帰還

アイヌ遺骨 杵臼コタンへ

Ancestral Repatriation, 85 years later

 

監督 藤野知明
撮影 藤野知明・淺野由美子・大井博一
編集 藤野知明・淺野由美子
資料提供 小川隆吉・市川利美・平田剛士

メディア DVD
制作年 2017年
価格 ¥1,000(税込)
製作 コタンの会・北大開示文書研究会

お買い求めは、こちらからどうぞ

http://hmjk.world.coocan.jp/dvd/dvd2017.html

https://kotankai.jimdo.com/dvd-八十五年ぶりの帰還/

2017年12月 1日 (金)

コタンの会・アイヌ遺骨返還請求訴訟 第1回口頭弁論

葛野次雄さん(コタンの会)の「意見陳述書」(2017年12月1日、札幌地方裁判所)をどうぞ。



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