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2016年8月 9日 (火)

UNDRIPを軽視したアイヌ遺骨・副葬品研究は許容されない  平田剛士(寄稿)

 2016年8月6日、札幌市内で「国際先住民族の日記念事業『考古学・人類学とアイヌ民族──最新の研究成果と今後の研究のあり方──』」が開かれました。主催は公益社団法人北海道アイヌ協会、また共催団体として日本人類学会と日本考古学協会が名を連ねています。約100人の聴衆が集まりました。

 2部構成のうちの第1部では、共催の各学協会2人ずつの会員研究者たち(いずれも和人)が、それぞれ自分の研究について約20分ずつのプレゼンテーションを行ないましたが、残念なことに、後半の第2部(パネルディスカッション「先住民族の権利に関する国連宣言に照らした今後の研究のあり方」)との連携がまったくみられませんでした。

 つまり、アイヌ墓地から掘り出された遺骨や副葬品を用いた彼らスピーカーたちの現在進行形の「研究」が、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(以下、UNDRIP)に少しも影響を受けておらず、そのまま臆面なく「最新の研究成果」として報告された、ということです。

    ※  ※  ※

 日本人類学会員で東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻・形態人類学研究室准教授の近藤修氏は、「形態人類学が明らかにするアイヌ民族と日本列島の人類史」と題して講演しました。この中で近藤氏は、「アイヌ人骨コレクションの貢献」と見出しをつけたスライドを投影しつつ、「小金井コレクション(東京大学)」「児玉コレクション(北海道大学)」を紹介。収集経緯が不明瞭で、大半が盗掘品ではないかと強く疑われているこれら大量の頭骨を用いた過去の「研究」を、ポジティブな意味で評価しつつ、詳しく紹介しました。なお、この発表で引用文献の扱いに重大なルール違反があったことを、被引用者の植木哲也氏が指摘しています。

 同学会員で山梨大学医学部法医学講座教授の安達登氏は、「遺伝人類学が明らかにするアイヌ民族の起源と系譜」と題して講演しました。ミトコンドリアDNAを分析して人類集団を分類する手法を紹介したうえ、各地出土の新旧の人骨から抽出したDNAを調べた結果を図示しました。しかし、そこで自らが用いた人体資料(DNA)の入手経路や、利用についての倫理性・正当性については説明がありませんでした。

 日本考古学協会員で北海学園大学日本文化学科教授の手塚薫氏は、「考古学研究から見たアイヌ文化の特徴」と題し、自らの踏査結果や文献資料をもとに、「チャシ」と呼ばれるアイヌの建築・構造物についての研究成果を語りました。先人の研究成果に多くを頼っている割には、いま批判の対象になっている先人たちの考古学的資料の発掘・収集・研究手法や倫理観について、自らの見解は何も示しませんでした。

 同協会員で弘前大学人文社会・教育学系人文科学領域教授の関根達人氏は、「アイヌ社会における日本製品の受容」の題名で講演しました。古代のものから近代のものまで、多数の墳墓から発見された副葬品について統計的に解析した結果を示しましたが、それらの遺物がいつ、だれによって、どのように収集されたものなのかの説明はありませんでした。なお「アイヌ墓の副葬品ベスト10」と称して種類ごとにランキングを示すプレゼンテーションは、お世辞にも上品とは思えず、残念でした。

    ※  ※  ※

 2007年のUNDRIP採択から、すでに9年が経過しています。この間、北海道大学などによるアイヌ墓地発掘遺骨・副葬品を用いた「研究」をめぐって、さまざまなレベルでの検証、シンポジウム、訴訟、報道・出版活動などが積み重ねられ、従来のアイヌ遺骨・副葬品「研究」の非人道性が厳しく批判されてきました。こうした批判に応える形で、各学協会と北海道アイヌ協会による「これからのアイヌ人骨・副葬品に係る調査研究の在り方に関するラウンドテーブル(中間まとめ)」(2016年)が、UNDRIP尊重を基本原則の第一に挙げたことが、ほかならない当日第2部のパネルディスカッションで紹介されました。

 しかしこの日、両学協会に属する4人の発表者のなかで、UNDRIPや「中間まとめ」と自分の研究の関係に言及する者は皆無でした。そして、各プレゼンテーションを聞く限り、それらの研究がUNDRIPを「尊重」しているようには感じられませんでした。

 もしかすると彼らの目には、UNDRIPや、アイヌ遺骨・副葬品研究者に批判的な世論が、「うっとおしい障害物」と映っているのでしょうか。

 「中間まとめ」には、次の言葉があります。

 〈当事者意識の希薄さが差別問題を深刻化させてきたことについて、学術関係者は真摯に受け止める必要がある〉

 〈学協会関係者は、人がヒトを対象として研究する際に、人権の考え方や国際的な先住民族の権利に関する議論や動向に関心を払いその趣旨を十分に理解する努力が足りなかった〉

 この日、演壇に立った学協会所属の4人は、大勢のアイヌを含む聴衆の目の前で、この言葉を徹底的に黙殺してみせたのでした。

 ひらた・つよし フリーランス記者、北大開示文書研究会

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コメント

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温かいコメントをありがとうございました。引き続きご関心をお寄せいただければと思います。

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