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2014年8月31日 (日)

植木哲也/遺骨「返還」ガイドラインの同化思想

遺骨「返還」ガイドラインの同化思想

植木哲也 北大開示文書研究会

 6月2日のアイヌ政策推進会議で、「個人が特定されたアイヌ遺骨等の返還手続に関するガイドライン」が明らかにされました。世の中にはこれで遺骨問題が解決するという期待もあるようですが、はたしてこのガイドラインで遺骨の返還は実現するでしょうか。

 すでに多くの方が指摘していますが、このガイドラインは「個人が特定された」遺骨に限ったガイドラインです。1636体と515箱、おそらくは2000人分以上の遺骨のうち、個人が特定されているのはわずか23体。残りの遺骨は返還の対象とされていません。これだけでも、「返還する」ためでなく、「返還しない」ためのガイドラインでないかと疑いたくなるのですが、問題はこれだけでありません。

 それは、返還先が「祭祀承継者」に限られている点です。「祭祀承継者」とは民法で「祖先の祭祀を主宰すべき者」とされています。先祖代々の墓を引き継いでその管理や供養を取り仕切る人と言えるでしょう。戦前の旧民法では、家督を相続する戸主が祭祀承継者とされるのが普通でした。このことからもわかるように、「祭祀承継」という考え方は、「家」を単位にして先祖代々の墓を守ってきた和人の伝統にのっとったものです。

 一方、アイヌ民族の伝統的な先祖供養は、コタンによって執り行われてきました。墓地はコタンごとにつくられ、先祖の霊は家単位の墓参りでなく、コタン単位の供養祭によって祭られてきました。特定の個人が祭祀を承継するという考え方は、アイヌの慣習にはないと思われます。祭祀承継者の証明ということ自体、そもそも無理な要求なのです。

 祭祀承継者に返すには、誰の遺骨か判明しなくてはなりません。アイヌ流のやり方であれば、コタンに返すということになるでしょう。コタンへ返すのであれば、個人が特定できなくても、どの墓地から持ち出されたかが分かれば充分です。大学に保管されている遺骨の多くは、発掘地が分かっています。にもかかわらず、今回のガイドラインは、わざわざ特定困難な祭祀承継者への返還に固執しているのです。

 祭祀承継という考えは和人流の考えです。ですから、ガイドラインの言っていることは、「和人流のやり方にしたがう者にだけ返す」ということです。明治時代の「北海道旧土人保護法」も「和人流のやり方で暮らす者だけ援助する」というものでした。もともと漁猟や交易で暮らしてきたアイヌの人びとに、農業への従事を求めたからです。

 今ではこうした同化政策は、アイヌ民族の伝統や立場を無視した差別的政策であったと考えられています。ところが、今回のガイドラインはその同化政策とまったく同じ発想でまとめられています。依然としてアイヌの慣習を認めず、和人の流儀で物事をおし進めようとしているのです。

 これでは、民族の復興をかたった差別の再生産ではないかと、私には思われます。

うえき・てつや/苫小牧駒澤大学国際文化学部教授

「個人が特定されたアイヌ遺骨等の返還手続に関するガイドライン」全文は本紙第9号、またはアイヌ政策推進会議のホームページでご覧いただけます。

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