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2012年1月

2012年1月23日 (月)

「さまよえる遺骨たち」市川利美

Harunire

 北海道に暮らしていながら、本当にはきちんと理解できていないことの一つが先住民族、アイヌの問題だ。北海道はアイヌの土地だ。その土地や文化、食べ物、言語、社会のすべてを奪った私たち和人は、本来はアイヌに北海道を返すべきであろう。それが無理だというなら、問題の一つ一つを解きほぐしていくほかない。その一つが、「さまよえる遺骨」問題である。

 昭和10年頃、北大医学部の児玉作左衛門という学者が、八雲、静内など各地のアイヌ墓地を掘り起こし、頭骨をはじめとする遺骨を持ち去った。その数は1000体を超える。

 「基を掘り、骨を持ち出す」などは、犯罪だ。「墓」というものにさしてこだわりはない私でも、もし、自分の親や先祖の墓がかってに掘り起こされたと知れば、とんでもないと怒るだろう。アイヌにとって墓地はそれ以上のもの、「聖地」に近いと小川隆吉さんはいう。隆吉さんは、とても熱心にこの問題に取り組むアイヌである。アイヌは身内が亡くなるとコタンにある墓地に土葬する。死者が生前大切にしていた刀やタマサイという首飾りなど宝物を一緒に埋葬する。

 無数のアイヌの頭蓋骨や刀を陳列した中で得意満面に見える児玉作左衛門氏の写真が残っている。彼はアイヌのため、研究のためと称して骨と副葬品を掘り出したのだが、副葬品は医学研究には関係ないはずである。骨も研究が終わったらもとの墓地に返すべきだった。しかし、墓地は穴だらけのまま放置され、無数の頭骨は大学のすみでゴミのように放置されていた。

 研究のためと言われ同意したアイヌもいたかもしれないが、多くは無断の発掘、つまり盗掘である。しかし、児玉氏は、「これは『遺跡』の発掘と同じだから『墓』掘りではない。」「遺族の同意を得ている」「学問研究の目的に必要だ」と正当化した。驚くことにそのような姿勢は今の北大も変わっていない。

 今年77歳の隆吉さんの熱意に動かされて、私は4年前から北大に対する情報開示のお手伝いしている。当初、わずか1点、「骨のリスト」を開示しただけだった北大は、隆吉さんの執拗な追求、不服申立に屈して、最後には35点もの文書を開示した(ありえない!)。だが、それでも不十分だ。「リスト」の原本である「台帳」が出てきたが、歯抜けである。肝心な情報のページが抜けている。北大の、できるかぎり真実を隠したいという姿勢がみえみえである。

 今、隆吉さんを中心に、研究者や宗教者、ジャーナリストなどが北大開示文書研究会を立ち上げ、シンポジウム「さまよえる遺骨たち」を開催したり、北大への要望活動を続けている。

 現在、およそ1000のアイヌの遺骨が遺族への説明も謝罪もないまま、新たに政府が建設を推進している「民族共生の象徴となる空間」に集められ、最近はやりのDNA研究の対象とされようとしている。アイヌはいつまで、研究者の餌食であり続けるのだろうか。北海道の大地に生きるものとして、同じ過ちは絶対におこしてはならないと強く思っている。

弁護士法人市川・今橋法律事務所「ハルニレは空たかくNo.26」(2012年冬)から

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